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まんぷくエッセイ vol.04

2026.02.28 | スタッフ雑記


  

手も、足も、顔も、耳もピリピリと痛むほどつめたい風を
全身で受け止めながら自転車で通勤していると、久しぶりにしもやけができていた。
今年の二月。

極寒とともに、新しい風が吹き込んできた。

二月のあいだだけ、二十歳のインターン生が事務所にやってくることになった。
インターン生を迎えるのは、これで三度目になる。

彼女は、少し緊張している様子だったけれど、よく周りを見て行動し、
話を聞きながらカリカリとメモを一生懸命書く、しっかり者の女の子だった。

最初はきちっとしたオフィスカジュアルな服装だった彼女も、
時間が経つにつれだんだんと普段着に近いカジュアルな服装になっていった。
「馴染んできてくれたのかな」と、心の中でニンマリしていたのは内緒である。

最初のぎこちなさも、やわらいだころ、
事務所のすぐそばにあるごはん屋さん「FIKA」に行こうという話になった。

FIKAは、私たちにとって唯一と言っていいごはん屋さんだ。
南吹田のおかあさんのような、温かくてやさしい店主さん二人が営む、
とっても落ち着く大好きなお店だ。

私はこの店のひとくちヒレカツが、とにかく好きだ。
気づけば、定期的に通っている。

せっかく南吹田にきてくれたのだから、ぜひこの味を知って帰ってほしい。
同期の波多野ともそんな話をして、FIKAに行く日を決めた。

待ちに待ったFIKAに行く当日。
午前中は、まだ元気だった。

けれど、時間が経つにつれて、今にももどしてしまいそうな気持ち悪さが押し寄せてきた。
だんだん座っているのもしんどくなり、やむを得ずテレワークに切り替えて帰ることにした。

帰り道、コンビニに立ち寄った。
棚に並ぶ食べ物を見るだけで、こみ上げてくる。
視線を泳がせながら、なんとかおかゆとゼリーを手に入れた。

家に着くなり、すぐにベッドにもぐり込む。
三十分だけ、とタイマーをかけて目を閉じた。

目を覚ますと、熱もなく、気分もさっきよりましだった。

お腹はムカムカしていたけれど、何か食べたいと思い、おかゆを温める。
冷蔵庫に残っていたりんごも、すりおろした。
いつもなら塩水につけて変色を防ぐけれど、今日はしない。
レモン汁もないので、りんごはすぐに茶色くなっていった。

本当なら、今ごろひとくちヒレカツを頬張っている予定だったのに。
目の前にあるのは、湯気の立たないおかゆと、茶色くなったすりおろしりんご。
それを、ちびちびと時間をかけて食べた。

風邪の前触れかと思ったけれど、翌日にはけろりと元気になっていた。
本当に、なんだったんだろう。
あの数時間だけが、ぽつんと浮いているみたいだった。

三日後。
あの日食べ損ねたヒレカツを目指して、ワクワクしながらFIKAのドアを開けた。
やさしい店主さんが「いらっしゃい~」と笑顔で迎え入れてくれる。
すでにお腹はぺこぺこだ。

席に着くなり、メニューも見ずに「ひとくちヒレカツ三つ」と注文。
お昼どきを少し過ぎていたこともあり、店内はほとんど貸切状態だった。
懐かしい曲が流れる店内で、私たちの話し声と、ヒレカツを揚げるパチパチという音が響いていた。

そして、待ちに待ったヒレカツが運ばれてきた。
湯気がもくもくと立ち上る揚げたてあつあつを、勢いよく頬張る。
サクサクで柔らかくて、なんと言ってもこのあまじょっぱいソースがたまらない。
噛むたびに、ソースが絡んだヒレカツのうまみが口いっぱいに広がる。

このヒレカツを、波多野はいつも「銀河一おいしい!」と言っている。
彼女には「銀河一おいしい」ものが、たくさんある。
銀河一おいしいドーナツ、銀河一おいしいイタリアン、銀河一おいしいハンバーグ……
ジャンルごとに銀河一がある。
ごはんを食べるたびに銀河一を考える彼女をみて、愛おしいな~と私はいつも思う。

この衝撃のおいしさにしあわせを噛み締めながら、
ふと、ある日の撮影のことを思い出した。

その日は、奈良の南生駒に現地集合だった。
待ち合わせの際、私はいつもかなり早めに現地へ向かう。
近くにカフェがなければ一駅手前で降りて時間をつぶし、十五分前には到着しているようなタイプだ。
その日も、最寄駅のひとつ前で降り、駅前のカフェで読書をしながら時間をやり過ごしていた。

そして、待ち合わせ場所へ向かうと、すでに彼女が立っていた。
聞けば、同じ駅で降り、同じカフェで時間をつぶしていたらしい。
ルートまで、まったく同じだった。

二十歳で、ここまで先を読んで動けるのかと衝撃を受けたのと同時に、
自分と同じ考えで動く人に出会えたことが、なんだかとても嬉しかったことが印象に残っている。

そんな彼女との思い出を振り返りながら、
衝撃的においしいヒレカツを、私たちは無我夢中で食べ進めた。

この二月のあいだ、私たちは毎日お昼を共にしながら、
学生時代のベストソングや将来のこと、卒業式の話や占いの話など、
女子高生のガールズトークのようなたわいもない話を繰り広げていた。

そんなこともあり、最終日、彼女に栗原が「先輩二人の印象はどうだった?」と聞くと、
「想像していたより若い感じがした」と返ってきた。
私たちらしいなと、思わず笑ってしまった。

来年の二月には、私は三十歳になる。
いつになれば、頼れる先輩になれるだろうと、
理想の三十歳についてふと考えてしまった。

程遠い頼れる先輩像を思い浮かべながら、
このインターン期間で、彼女にとって何か一つでも学べることがあってくれたら嬉しいなと思った。

これから先、就活が始まり、夢のデザイナーになる彼女の未来が
しあわせであることを、心の底から願っている。

いつかまた、デザイナーとなった彼女と再会できることを、密かに夢見て…。

文・イラスト 杉本 月

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